

【時代背景】済州島チャムス(海女)の国外出稼ぎは百年を越える歴史を有する。彼女たちが移動してきた背景には、日本の植民地支配があった。併合前から荒らされた済州島の海を離れ、遠く朝鮮半島から中国、ロシア、そして日本へ出稼ぎ出漁を繰り返してきた。…(中略)…解放後の帰郷にあたっては、持ち帰り財産の制限や交通手段確保の問題、済州島での経済状況などさまざまな要因で日本に留まる人々がいたのである。そのなかで継続して日本の海で潜水漁をするチャムス、さらに解放後の済州島での「4・3事件」により日本にいる人びとを頼って渡日し、その後の生活のために裸潜水してきたチャムスもいるのである。
伊地知紀子(大阪市立大学文学科教授)「帝国日本と済州島チャムスの出稼ぎ」
【初演時の評】戦後日本人は、何を記憶し何を忘れ去ろうとしていたのか。日本人にとって「近代」とは何であり、「他者」とは誰であったのか。…(中略)…この作品がNHK番組と異なる点は、第一に「語り手の立ち位置」である。『大都会の海女』では、彼女たち(眼の前にいる海女たち)が主語で語られていた。最後に満員の通勤電車に揺られる海女たちにナレーションが被さる。
「生きているところが彼女たちの朝鮮である。そして、朝鮮ではない」
丁 知恵(東京大学院)